農業博士　フィリッポ・コンティーニ・ボナコッシ（Filippo Contini Buonacossi）
トスカーナ州（Toscana）

この一年カペッツァーナにとって大変難しい一年となりました。オリーブの実をもたらす花の開花時期に大量の雨が降りました。それにもかかわらず、オリーブはたくさんの花をつけましたが、実になったのは残念ながら僅かでした。

量が限られると、オリーブミバエなどの天敵もその僅かな量をねらって凶暴になります。普段の３倍の手間をかけ、有機の自然な方法を何度か繰り返して、オリーブの実を守りました。ですが記録的な突風や雹（ひょう）が次々と襲いかかり、オリーブの実を樹々から吹き飛ばしていきました。突風が襲ってきた時には、農園にある100歳以上の大木が3本倒れました。初めてのことです。その際はオリーブの実がまるで収穫をしているかのように地面に落とされていました。また雨の降らない酷暑はオリーブの実のサイズをを小さくとどめました。

10月の半ばから30%ほど残ったオリーブの実の収穫をはじめましたが、数日をのぞき雨が続いています。雨の時は畑での収穫ができず、またあまり続くとさらにオリーブの実が落ちてしまう可能性もあります。

このように最初から最後まで困難に見舞われた一年でした。

ただオリーブの実は健康で美しく、カペッツァーナらしい透き通るグリーンな風味、青リンゴ、アーティチョークなどの風味を感じる、エレガントな味わいに仕上がっています。口に含んでいただくと、ごくごく僅かな苦味がとても心地よく、グリーンの豊かな風味が長く続きます。同時に後味はすっきり、品質の高さゆえの味わいを満喫いただけるとおもいます。

毎年楽しみにしてくださっている日本の皆様にはお届けできる量が限られ申し訳なく存じます。
大自然が決めることですが、来年はご満足いただけるよう努めます。

日本のみなさまに私たちのオリーブオイルをご満喫いただけますように。


Filippo Contini Buonacossi


※2019年より、日本向けのオリーブオイルはテラコッタのかめから、ステンレス製のコンテナーに変更しています。

ーあなたにとって『伝統』とは？
伝統とは、先人が遺した智慧の上に自らが立っていることを認識すること。そこに留まることでなく、改革することであり、またさらなる高みに向かって常に努力し続けるための刺激でもあります。私の父は伝統というものを、まるでスポーツのスキーのように捕えていました。静的でなく動的、つねに動いていくものであり、進化していくものであると。

ー畑（自然の中）にいるとき、一番大切なものとは何でしょうか？
何よりも大切なのは、大地への尊敬の念です。
限られた資源、それぞれが唯一無二である自然には、持ちゆる限りの尊敬の念が払われるべきですし、考えられる限りの世話をするべきです。今の状態そのままに次の世代に譲り渡せるように。化学物質の使用は避けて有機肥料を使うなど、環境に負担をかけないように出来る限り努力することは、とても大切なことです。

我々の大地は密な粘土質であるため、適切なタイミングで畑仕事を行なうことが大変重要です。土の塊にして寒気をあて、ただし土が湿った際にはこの仕事は行なわず、土壌の有機栄養分を増やし肥やしていくのです。１メートルの百万分の一にも満たないごく細かな粒子が、少しずつ大きな粒子を形作っていくのです。こうして土壌が、柔らかく弾力をもち、水はけが良く、空気を含むようになるのです。

ーあなたにとって農家の方々との関係とは？
カペッツァーナで働く農家の方々との関係が、私の仕事において一番私に満足を与えてくれるものなのです。私は今まで、彼らと素晴らしい関係を築いてきました。相互に尊敬し合い、刺激し合い、真の友情を育んできたのです。
多くの経験を積んできた彼らから学ぶことがとても多く、また私からも研究の結果などを彼らに提供してきました。収穫について最良の策を真剣に話し合うことで、私たちは関係を作り上げていったのです。

私たちの仕事は素晴らしいものですが、同時にとても難しくもあります。同じような収穫年は決して無く、毎年違うのですから。今年正解だったことが、翌年当てはまるという訳ではないのです。その年はどう農作業を行なうのが適切であるか、毎年予測していかなければなりません。高齢の方々の経験から多くのアドバイスを受けらるのは、素晴らしい恩恵です。
年間を通してオリーブの樹々の世話をしてくれる農家の方々は８０名ほどいます。オリーブの樹１本１本の影に、そうした農家の方々がいるのです。カペッツァーナの真の強みは、まさにここにあるのです。こうした素晴らしい方々と恊働できていて、我々は本当に幸運だと思います。

私たちのオリーブオイルは、深い愛情、情熱、そして果てしない手間の結晶です。味わっていただいたら、きっとその意味を判っていただけることでしょう。